忍者通訳の記録帖

気配の通訳・翻訳所。空気、沈黙、すれ違い──そしてたまに、自分自身。

2025-06-10から1日間の記事一覧

#092「15からやってる」――その一言が壊した私の地図

... あの一言に、私は耐えられなかった。 その日、ベテランの職人さんが帰る前に、ふと尋ねた。 「お二人(若手の職人)は、どれくらいやれば、屋根や外壁を一人で任されるようになるんですか?」 彼は若手の年齢と始めた年をぽつぽつと話した後、自分のこと…

#091 昼12時のファミマにて──リズムで動く人たち

今日のお昼、近所のファミリーマートの前を通ったときのことだ。駐車場に、工事用の車が一台入ってきた。砂利を運びそうな、後ろがガラ空きになった2tトラック。そこに、猫車がひとつだけ、ぽつんと乗せられているのが見えた。 ああ、これは現場の車だなと思…

#090 セピア色の記憶と、ぴょこぴょこの午後に

レジに並んでいたときの、ほんの数分の出来事だった。 あの親子の姿を見たとき、すぐに頭に浮かんだわけではないけれど、家に戻ってふと視線を向けると、部屋の隅にあるあの写真が目に入った。 木の枠にガラスがはめ込まれた、小さな額縁。その中には、母と…

#089未来の医療はすでに始まっている――私とダヴィンチと予防医療の話

手術支援ロボット「ダヴィンチ」が進化しているらしい。医師の手の動きをロボットがなぞるだけでなく、「力の加減」まで再現できるようになったという。触っていないのに、まるで触っているような手術ができる。そんな時代になっていることに、私は少し驚い…

#088 再生の入口で、静かに思う──#047の続編として

あれから一週間が経った。あの家は、まだ壊されていない。あの日の衝撃と混乱が嘘だったかのように、家はただ、そこにある。 外壁は白く、屋根も青く、庭には整った緑が残っている。窓枠のいくつかが外され、解体材のようなものが端に積まれてはいるけれど、…

#087 骨格が奏でる音──異国の声に出会った日

幼稚園の頃、私はある日、ひとりのフランス人の神父さんと出会った。白人の、もう年配の男性だったと思う。彼は日本語を話していたが、その日本語は、私がこれまで耳にしたどんな日本語とも違っていた。 あるとき、彼が周囲の保護者たちに向かって、こう言っ…

#086私は 論理語で生きている──職人語という外国語との出会い

論理語で生きてきた私が、職人語という“別の文化”に出会った日 今回の家の塗装工事で、私は久しぶりに“本物の職人”と対面する機会を得た。寡黙で手を止めず、私の問いには必要最小限の言葉だけで応える──そういう存在だった。 ふだん私は、営業担当や元請け…