2025年4月、トランプ大統領は世界を驚かせた。
「まさか本当にやるとは」──そう思った人は多かったに違いない。
“すべての国に対して一律10%の関税をかける”。この突如として発動された「解放の日(Liberation Day)」の宣言に、マーケットは凍りついた。そして同時に、ウォール街のエリートたちは鼻で笑った。「またいつものやつだ」
T.A.C.O.──Trump Always Chickens Out。
“どうせまた尻込みする”。
ロイ・コーンの教え:謝罪するな、100倍返せ
若き日のトランプに戦略を叩き込んだのは、辣腕弁護士ロイ・コーンだった。
- 決して謝罪するな
- 攻撃されたら100倍返ししろ
- 弱さを見せるな
トランプはこの戦略を、ビジネスの世界、メディア、政治の舞台で徹底的に実行してきた。そして今、「タコ」と揶揄されたその瞬間、彼の人格の奥にある“侮辱への過剰反応”がスイッチを入れる。
それは政治の舵取りを狂わせる。
ウォール街の嘲笑:TACOという皮肉
金融エリートたちは知っている。トランプは最初に強気で殴り、相手がひるめば引っ込める。「芝居」は見透かされている。
「どうせ高関税なんて経済がもたない。選挙のパフォーマンスだろ」
だから彼らは言う。“TACO”──Trump Always Chickens Out。
それは略語であり、侮辱であり、見え透いた未来予測だった。
トランプはその言葉に噛みついた。
怒りとアリバイ作り:感情が政策を駆動する
実際、6月に入ってトランプ政権は、アルミニウムと鉄鋼への関税を25%から50%に引き上げた。
ターゲットは中国だったかもしれない。いや、それはもはや問題ではない。
問題は、「やられたらやり返す」という彼の内的動機が、経済政策の引き金を引いてしまうという現実だ。
マーケットは冷静さを装うが、事態は冷静ではない。
二重構造のトランプ:反エリートを演じるエリート
トランプは大衆の前では“ウォール街と戦う男”を演じる。
だが、現実には減税・株高・富裕層優遇を進め、金融界とも手を組んできた。
反エリートという仮面の裏にあるのは、
「自分が一番のエリートでありたい」という欲望だ。
ウォール街から「TACO」と揶揄されたとき、その欲望は侮辱に変わり、怒りに変わり、政策の歪みへと転化する。
7月へ──再び世界は“タコ”を見るのか
4月に宣言された高関税には、90日の猶予期間がある。
7月、期限が切れる。
果たしてトランプは関税を引き下げるのか? それとも維持・再強化するのか?
合理性で見れば撤回すべきだ。
だが、人格への侮辱が引き金になるなら、世界はまた“非合理な爆発”を経験することになる。
TACO──それは、彼の過去と現在、そして次の引き金を映す鏡かもしれない。