6月15日、スクロールの株主優待ポイントを「申し込んだ」と思っていた。
封筒に記載されたQRコードを読み取り、ナチュラムというECサイトに会員登録し、ログインも済ませた。あとは「1週間ほどでポイントが付与される」と書いてあったので、ただ待っていた。
ところが、10日以上経った6月27日、ポイントの付与状況を何気なく確認してみると、表示されているのは「現在のポイント:0」。
あれ、おかしいな──そう思って、スクロールの株主優待係にメールで問い合わせてみた。
「私、ちゃんと申し込めていましたか?」
返ってきたのは、非常に丁寧な長文のメールだった。
「申し訳ありませんが、○○様からはまだ交換のお申込みをいただいていないようでございます」
という一文とともに、1から8まで番号の振られたステップが列挙されていた。
メールの文面は、決して失礼ではなかった。
むしろ、行き届いた敬語と、視覚的にわかりやすい“赤色のボタン”や“ピンク色のボタン”という具体的な指示。
それなのに、なぜか読み終わっても内容が頭に入ってこない。
何度も読み返して、ようやく理解した。私は、「申し込みを完了したつもり」でいて、実際にはその「手前」で止まっていたのだ。
ステップの多さに驚いた。
株主番号でログインしたのは「第一関門」に過ぎず、そこからまた自分でサイトを選び、会員登録し、さらに戻って、改めてポイント交換を申し込まなければならない。
そして、その申込みがようやく済んだ後に、ポイントが各ECサイトに発行される──そんな流れだった。
この丁寧で複雑な“手順書メール”を読んで、前に感じたことが蘇った。
スクロールという会社は、ECを中心とした企業だ。そしてそのECサイトの多くは、美容や健康、アウトドア用品など、若い女性をターゲットにしている。
スマホに慣れ、複数のポイントサイトを使いこなし、「ここのリンクを経由するともっと得する」といったルートを瞬時に判断する、そういった“ポイ活スキルの高いユーザー層”を想定して設計された世界観。
それ自体は、企業の方向性としてまったく自然なことだ。
けれど、その設計思想が“株主優待”にもそのまま持ち込まれていることに、私は少し驚いた。
投資家というのは、ポイ活に積極的な人ばかりではない。
ECサイトの登録に不慣れな中高年の株主や、スクロールの商材にあまり関心がない株主も、当然いる。
そうした多様な層に向けて株主優待を設計する場合、もう少し“平らな”導線、あるいは「申し込んだつもり」を一度きちんと受け止めてくれるような設計もあり得たのではないか。
けれど、今回届いたメールには、そういった「補助線」はなかった。
手順を淡々と提示し、「○○様はまだ申し込んでいません」と静かに告げる。
それはまるで、最近よく目にするAIによる文章のように、構造的には正しく、情報の欠落もない。けれど、どこか共感の温度が低い。
この“冷たいわけではないのに、温かくもない”文章が、今のスクロールの設計思想そのもののように感じられた。
効率的で、ミスがなく、ターゲットが明確。でも、そのターゲットに含まれなかった人にとっては、少しだけ遠く感じる。
私はポイ活が苦手なタイプだ。
面倒な手続きを踏むことに慣れていないわけではないけれど、「これで申し込めたのか?」「まだ続くのか?」と、途中で少し疲れてしまう。
だからこそ、今回のやりとりは強く印象に残った。
企業の“優しさ”とは何か──そのあり方が、株主優待という形を通して浮かび上がってきたように思えたからだ。
これは、スクロールという会社の姿勢そのものだと思う。
丁寧で、設計は破綻していない。でも、そこに描かれている“ユーザー像”は、やはりかなり限定されている。
そして、その限定された輪郭が、文章や導線の端々からにじんでいた。
今回の体験は、けっして「嫌だった」わけではない。
むしろ、「ああ、こういう会社なんだな」と、ひとつ知見を得たような感覚に近い。
株主優待とは、企業が株主に見せる「もうひとつの顔」なのかもしれない。
スクロールのその顔は、今のところ、とても明確な色を持っているように見えた。