忍者通訳の記録帖

気配の通訳・翻訳所。空気、沈黙、すれ違い、視点の跳躍──そしてたまに、自分自身。精度はいつも道の途中。  

⚙ #224第3話 名前を変えずに成長する企業──AppleとAmazonの“顔”の一貫性

前回は、MetaやAlphabetのように「社名を変えることで企業の正体が見えにくくなった」例を取り上げた。
では逆に、「名前を変えずに」拡大し続けてきた企業もある。AppleAmazonだ。

この2社は、長い年月のなかで事業内容も顔つきも変わってきた。
けれど、社名はずっと変えていない──それはなぜだろう?

Apple──シンプルな名前と“アイコン”としての進化

Appleという社名は、創業者のスティーブ・ジョブズが「堅苦しくない」「親しみやすい」「電話帳でAtariより前に来る」といった理由で選んだと言われている。

Atari(アタリ)は、1970年代に設立されたアメリカのゲーム会社で、世界初のアーケードゲーム「Pong」や家庭用ゲーム機で一時代を築いた。ジョブズは若い頃、このAtariで働いていた経歴がある。

アップルはもともとパソコンメーカーだったが、
iPodiPhoneApp StoreApple Watchといったプロダクトを通じて、
ハードウェアからサービスまで、生活全体を包み込むようなブランドになっていった。

それでもAppleは社名を変えなかった。
むしろ「Apple」という言葉自体が、
“デザイン性”“未来志向”“信頼性”などを意味するブランドそのものになっていった。

名前を変える必要がなかったのは、
企業の進化と社名のイメージが乖離せずに歩調を合わせてきたからだ。

Amazon──“本屋”から世界最大の流通企業へ

Amazonもまた、かつてはただのオンライン書店だった。
けれど今では、ありとあらゆるものを扱うマーケットプレイスへと成長し、
さらにクラウド、AI、物流インフラまで広がりを見せている。

なかでも注目すべきは、AWSAmazon Web Servicesというクラウド事業。
これは企業向けにサーバーやストレージを提供する巨大インフラで、
NetflixNASA、政府機関なども利用している。いまやAmazonの利益の大黒柱だ。

それでも、「Amazon」の名前は変わらなかった。

もともとこの社名には、
「AからZまで何でもそろう(Amazonのロゴにもその矢印がある)」という意図や、
「世界最大の川のように大きくなる」という野望が込められていた。

つまり、最初から“なんでもあり”な名前だった。

「本屋の名前」というより、「拡張性を含んだ象徴」だったのだ。

■ 名前を変えなかったことの意味

AppleAmazonは、社名を変更することなく拡大を続けてきた。
それは、社名と実態のあいだに大きなズレが生まれなかったこと、
あるいは最初から拡張可能な名前を選んでいたことが大きい。

MetaやAlphabetのように“再定義”する必要がなかったのだ。

Appleは、社名のまま進化しながら“アイコン”になった。
Amazonは、社名のまま拡大しながら“インフラ”になった。

名前を変えないことで、
むしろ一貫性と信頼感が強まったのかもしれない。

次回は、社名ではなく「ロゴの変遷」から企業の変化を読み解いてみる。
目に見える“形”が、どのように会社の中身を反映してきたか──。