前回は、MetaやAlphabetのように「社名を変えることで企業の正体が見えにくくなった」例を取り上げた。
では逆に、「名前を変えずに」拡大し続けてきた企業もある。AppleとAmazonだ。
この2社は、長い年月のなかで事業内容も顔つきも変わってきた。
けれど、社名はずっと変えていない──それはなぜだろう?
■ Apple──シンプルな名前と“アイコン”としての進化
Appleという社名は、創業者のスティーブ・ジョブズが「堅苦しくない」「親しみやすい」「電話帳でAtariより前に来る」といった理由で選んだと言われている。
Atari(アタリ)は、1970年代に設立されたアメリカのゲーム会社で、世界初のアーケードゲーム「Pong」や家庭用ゲーム機で一時代を築いた。ジョブズは若い頃、このAtariで働いていた経歴がある。
アップルはもともとパソコンメーカーだったが、
iPod、iPhone、App Store、Apple Watchといったプロダクトを通じて、
ハードウェアからサービスまで、生活全体を包み込むようなブランドになっていった。
それでもAppleは社名を変えなかった。
むしろ「Apple」という言葉自体が、
“デザイン性”“未来志向”“信頼性”などを意味するブランドそのものになっていった。
名前を変える必要がなかったのは、
企業の進化と社名のイメージが乖離せずに歩調を合わせてきたからだ。
■ Amazon──“本屋”から世界最大の流通企業へ
Amazonもまた、かつてはただのオンライン書店だった。
けれど今では、ありとあらゆるものを扱うマーケットプレイスへと成長し、
さらにクラウド、AI、物流インフラまで広がりを見せている。
なかでも注目すべきは、AWS(Amazon Web Services)というクラウド事業。
これは企業向けにサーバーやストレージを提供する巨大インフラで、
NetflixやNASA、政府機関なども利用している。いまやAmazonの利益の大黒柱だ。
それでも、「Amazon」の名前は変わらなかった。
もともとこの社名には、
「AからZまで何でもそろう(Amazonのロゴにもその矢印がある)」という意図や、
「世界最大の川のように大きくなる」という野望が込められていた。
つまり、最初から“なんでもあり”な名前だった。
「本屋の名前」というより、「拡張性を含んだ象徴」だったのだ。
■ 名前を変えなかったことの意味
AppleやAmazonは、社名を変更することなく拡大を続けてきた。
それは、社名と実態のあいだに大きなズレが生まれなかったこと、
あるいは最初から拡張可能な名前を選んでいたことが大きい。
MetaやAlphabetのように“再定義”する必要がなかったのだ。
Appleは、社名のまま進化しながら“アイコン”になった。
Amazonは、社名のまま拡大しながら“インフラ”になった。
名前を変えないことで、
むしろ一貫性と信頼感が強まったのかもしれない。
次回は、社名ではなく「ロゴの変遷」から企業の変化を読み解いてみる。
目に見える“形”が、どのように会社の中身を反映してきたか──。