忍者通訳の記録帖

気配の通訳・翻訳所。空気、沈黙、すれ違い、視点の跳躍──そしてたまに、自分自身。精度はいつも道の途中。  

#573 浦島太郎はスーパーの飲料売り場にもいた 🐢⏳🍵

今日のニュースで、日本のGDPが伸びたけれど飲料の消費は少し落ちたという話を読んだ。
「飲料」といってもいろいろあるけれど、ふと、ペットボトルのお茶のことを思い出した。
そういえば、私は最近まで日本茶の500mlペットボトルがほとんど世の中から消えていることを知らなかった——。


2017年から2018年にかけて、私は大手スーパーの飲料売り場で品出しの仕事をしていた。🛒
売り場の世界は単純で、ほぼ2Lか500ml。たまに1.5Lや2.5Lがある程度で、基本形は変わらない。

まずは2Lの棚を確認する。空きが目立つところは、手前の商品を寄せて「スカスカしてないように」見せる。
それから倉庫へ向かう。そこは薄暗く、少し埃っぽく、湿気を帯びてひんやりしていて、いつも少しだけ怖い場所だった。そこで売れ筋の飲み物を台車に山積みする。📦

売り場に戻ったら作業開始。段ボールをペリッと開け、ボトルをシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカとリズムよく棚に並べる。
そして空になった段ボールをペシャと潰し、台車に積んでいく。
この繰り返しで棚がきれいに埋まっていくと、不思議と気持ちもすっきりする。


その後は500mlのコーナーへ。ここは冷蔵ケースなので狭く、詰めすぎないよう注意が必要。
倉庫から台車で運び、冷えた棚に1本ずつ並べる。
毎日やっていると、どの銘柄がどの時間に減るかが見えてくる。
ときどきコカコーラや伊藤園の営業さんがやってきて、自分のメーカーの商品を補充して、品出しを手伝ってくれる。腰をかばいながら「お互い気をつけましょうね」と笑い合うのも日常だった。


私は元々、日本茶は茶葉で入れる習慣があり、ペットボトルのお茶を飲む習慣はない。
買うとしたら、どこかへ出かけたときの“特別な1本”くらい。
だから、2018年にその仕事を辞めてからも、売り場の変化に気づく機会はほとんどなかった。


半年前、病院のコンビニでお茶を手に取ったとき、ちょっとした違和感があった。
なんだか重い。ラベルを見ると、容量が600mlか650mlになっていた気がする。
「病院だから待ち時間も長いし、患者さんへのサービスなのかな」と思い、その場では納得した。


そして2025年6月、外壁塗装の業者さん用に飲み物をまとめ買いしに大手スーパーへ行ったときのこと。
2Lは山積みなのに、小さいボトルは水とコーヒーばかり。
日本茶の500mlが見つからない。やっと見つけたのは濃縮タイプのお茶で、カルピスのように薄める原液だった。
別のドラッグストアでも同じ結果。私は「日本茶の500mlは世の中から消えたのかもしれない」と本気で思った。ちょっと謎だったけど。


そして今日、ネットスーパーを見て、その理由がわかった。
今やスーパーやコンビニの日本茶は、600mlや650mlが主流。500mlはほぼ自販機専用になっていた。
2018年以降、じわじわと進んだこの変化を、私はまるで浦島太郎のように、何年も知らずに過ごしていた。


⏳📦 気づかぬうちに日常は少しずつ姿を変えていく

ペリッ、シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ、ペシャ。
その音とともに、軍手越しのざらりとしたダンボールの感触や、ベリッと開けるときに手にかかる確かな重み、わずかにしなる背中——潰してもなお、ふわりと形を戻そうとする箱を、重ねた重みでそっと押さえ込む感覚まで、今も指先と胸の奥にじんわりと残っている。
気づけば、あの売り場はすっかり、私の知らない時間を歩いていた。