男は、株主優待の案内を受け取った。
紙にはIDとパスワード、そしてQRコードが印刷されていた。
男は首をかしげた。
これだけ?
説明がない。
何に使うのか。
どう使うのか。
本当にこれだけなのか。
少し不安になった。
そこでQRコードを読み込んだ。
すると質問が始まった。
資産はどれくらいか。
保有状況はどうか。
年齢は。
いくつかの質問に答えながら、男はだんだん考え始めた。
これは何だろう。
会社は何を考えているのだろう。
株主を囲い込もうとしているのか。
ポイント経済圏に引き込みたいのか。
いや、そもそも説明書はどこにあるのだろう。
男は探した。
机の上を探した。
書類の山を探した。
封筒を探した。
記憶も探した。
もしかすると捨ててしまったのかもしれない。
そんなはずはない。
大企業が説明なしで済ませるはずがない。
どこかにある。
きっとある。
男はAIにも相談した。
ポイントの仕組みを聞いた。
アプリの使い方を聞いた。
会社の狙いまで考えた。
気がつけば半日が過ぎていた。
夕方になって、男はようやく一枚の紙を見つけた。
あった!
説明書だ。
探していたものだ。
安堵しながら手に取る。
男は何気なく紙を裏返した。
見慣れた紙だった。
ID。
パスワード。
QRコード。
説明は裏に印刷されていた。
男はしばらく黙った。
探していた紙は失われていなかった。
説明も隠されていなかった。
ずっと持っていた。
ずっと見ていた。
ただ裏返していなかっただけだった。
男は笑った。
心の底から笑った。
半日かけて探した秘密は、
最初から手の中にあった。
彼が気づくまで、
ただそこにいた。