忍者通訳の記録帖

気配の通訳・翻訳所。空気、沈黙、すれ違い、視点の跳躍──そしてたまに、自分自身。精度はいつも道の途中。  

#165 構造疲労と誠実な失敗

 

これは誰かが悪いという話じゃない。

誰もが分からないまま、分からないことを一生懸命やって、
でも気づいたら、取り返しのつかないところまで来ていた──

私はそれを「構造疲労」と呼びたくなる。

たとえば、今回のJA全中システム開発失敗。
全国の農協で使う業務システムを作ろうとして、200億円という大きな損失を出してしまった。
背景には、現場の多様な要望の吸い上げが難しかったこと、
それを翻訳・整理する力が中にいなかったこと、
途中で「もう無理だ」と外注ベンダーに投げたこと、
でもそのベンダーも設計の混乱に巻き込まれて収拾がつかなくなったこと──
そんな流れがあったのだろうと思う。

これは、国家公務員の統計処理ミスの話にもよく似ている。
統計の知識がない職員が、上からの「出せ」という指示に応えて徹夜で作業をする。
でも、結果として出てきたものは専門家から見れば「根本的に間違っている」。

作った人は悪くない。ただ「素人だった」だけだ。
でも、そのまま発表されたときに生まれる混乱や信用の失墜は、現場の誠実さだけでは防げない。

誰も止められない。
判断する側も、現場も、「よくわからない」まま進んでいく。

これはシステムの問題というより、組織の問題だ。
知の構造、責任の構造、判断の構造。
そのどれにもヒビが入り始めたとき、人は「一生懸命」になる。
でも、それが時に“誠実な破壊”につながることがある。

JAの件も、公務員の件も、私はそこに似たような痛みの匂いを感じる。

では、こうした構造疲労をどうすれば防げるのか。
どうすれば、「わからないまま進んでしまう組織の癖」を変えられるのか。

それは次の #166 で、少し考えてみたいと思う。